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“変化のストーリー ~困難を成功へのきっかけに~”

これから日本の皆さんにご紹介するのは、FIDRカンボジア事務所が取り組む「栄養教育普及プロジェクト」の現場で、私たちのチームが出会った、ある1人の校長先生の変化のストーリーです。

実は、このようにプロジェクトをきっかけに成長を遂げた校長先生のストーリーをご紹介するのは、今回で2人目になります。以前ご紹介した校長先生(※)に続き、今回も、教育現場で奮闘する1人のリーダーの姿を通して、学校や地域が、どのように変わっていくのかをお伝えしたいと思います。

※モンドップ小学校で校長を務めるスァー・ポーン先生の変化のストーリーはこちらから:前編後編

ヘン・ヴェンサン先生が、カンボジア・コンポンチャム州のスレイセントー郡にある小さな学校、ラヴィエテー小学校の校長に任命されたのは2018年のことでした。

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ヘン・ヴェンサン先生

ラヴィエテー小学校 校長

FIDRとのプロジェクト開始当初は、校長になったばかりで、自信がない様子でした。何事も1人で抱え込み、誰にも相談せずに問題を解決しようとし、行動も自分ひとりで済ませてしまう傾向がありました。ですが、FIDRの活動や、課題を知り、解決方法を話し合う研修などを通じて、「課題は1人で抱え込まず、周囲と共有し協力することで解決できる」という気づきを得て、実践し始めました。そして、徐々にリーダーとしての力が育まれていき、次第に他の教員たちや地域の人たちからも信頼される頼もしい校長へと成長していきました

ですが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

この学校にとっての最大の課題は「学校の安全と環境をどう守るのか」でした。ラヴィエテー小学校は、寺院の敷地の中にあり、日中・夜間を問わず門が解放されています。そのため、夜になると若者のグループや、時には不良グループが敷地内に入り込み、ごみを捨てたり、トイレの扉を壊したりするなど、学校の環境が荒らされる事態が続いていたのです。初め、ヴェンサン校長は自力で解決しようと奮闘しました。警察に通報したり、夜間に自ら巡回したりもしました。ですが、状況はなかなか改善しませんでした。やがて「自分にはどうにもできない」と諦めかけていました。

そんなある日、また事件が起きました。FIDRが支援して立ち上げた保健教育室が不良グループに狙われ、ドアとガラス窓が破壊され、そして救急箱の中身が盗まれてしまったのです。この教室は、子どもたちの健康を守る拠点として、FIDRとともに進めてきた保健教育を推進する上で欠かせない場所でした。

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不良グループによって破壊されたガラス棚や鍵

この事件に直面したヴェンサン校長は「今回ばかりは黙って見過ごせない」と強い憤りを感じました。そして、この問題は、学校だけで解決できるものではなく、子どもたちを取り巻く地域の課題だと痛感しました。これまで1人で課題を抱え込みがちだったヴェンサン校長でしたが、周囲の力を借りて助けを求める決断をし、学校運営委員会、地元警察、郡の行政官に報告し、協力を要請しました。その結果、警察によって犯行に関わった若者たちが逮捕されました。

ところが、その少年たちは、なんとラヴィエテー小学校の卒業生でした。この出来事が、ヴェンサン校長に深い気づきを与えました。「私の指導が足りなかったのではないか」という考えも頭をよぎりましたが、ただ悔いるのではなく、今後の再発防止に向けて、前を向くことを選びました。

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他の教員との勉強会の様子

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保護者・地域住民にも協力を要請

ヴェンサン校長は、教員や保護者向けに開催している勉強会で、道徳教育と生活指導の強化を提案し、そのためには、子どもたちを学校だけでなく、地域全体で気にかける環境づくりが必要だと訴えました。

保健教育室を荒らした元生徒たちの問題にもヴェンサン校長は取り組みました。元生徒たちは警察に逮捕され、処罰を受けることになりましたが、校長先生は、それで終わりにして良いとは考えませんでした。元生徒が立ち直るためにも支援が必要だと考え、現在通う高校にも連絡し、教員による見守りを依頼しました。その結果、元生徒たちは退学処分にならず、学校・家庭・地域が連携して見守るなかで、同じ高校で再スタートを切ることができました。

現在、ラヴィエテー小学校は、安全で環境の整った学びの場へと、着実に歩みを進めています。当初と比べて、学校の敷地内に侵入し、設備を壊す不良グループの数や、校内で捨てられるゴミの量も減少しています。校長の粘り強い取り組みに対して、地域の住民や教職員からも称賛の声が多く寄せられています。

こうした学校の変化の背景には、ヴェンサン校長自身の大きな成長があります。以前は問題を1人で抱え込みがちだった彼が、課題の解決には他者の力を借りることも必要だと気づき、主体的に周囲へ協力を呼びかけられるようになったこと。その変化が、学校全体の雰囲気を大きく変えていきました。

そして今、ラヴィエテー小学校には、そうした頼もしいリーダーのもとに、教職員、保護者、地域の人々が自然と協力し合う関係が築かれつつあります。ヴェンサン校長のストーリーは、「地域が一体となれば困難を乗り越えられる」という象徴として、同じような課題に直面する他校の教員や地域の人々に良い影響を与えています。

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