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変化のストーリー ~マネジメントスキルとリーダーシップスキルの向上をめざして  ~ (後編)

マ・ソピアビー

プロジェクト・ファシリテーター(FIDRカンボジア事務所)

★前編をまだお読みでない方へ:こちらからご覧ください。

 

前編では、モンドップ小学校のスァー・ポーン校長先生と、彼がもたらした栄養教育分野での変化についてご紹介しました。ここでは、彼の変化に焦点を当ててさらに詳しくお伝えしたいと思います。

 

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もう1つの例は、パソコン・スキルに関する変化です。校長先生は、私たちとの活動を通して、初めてパソコンを使うようになりました。最初は何も分からないところから始めたパソコンでしたが、何度も私たちの研修に参加し、分からないところは繰り返し質問するなどして、練習を繰り返しました。その甲斐あって、以前は手書きで作成していた書類も、今ではパソコンで作成できるようになり、書類作成のみならずスライドを作成してプレゼンテーションができるまでになりました。

さらに、2023年、モンドップ小学校に10台のパソコンが外部より寄贈されました。ところが、そのパソコンを使いこなせる教員が他にいませんでした。校長先生は自身が学んだことを児童・生徒にも伝えたいと考え、スケジュールを調整して、今はクメール語のタイピングやマイクロソフト・ワードの使い方を教えています。

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スァー・ポーン校長先生が教えるパソコンクラス

さらに、スァー・ポーン校長先生が生み出した変化の1つに、ゴミ問題への取り組みがあります。これまで、モンドップ小学校のゴミ管理は決して上手く行われているとは言えませんでした。学校の至るところにゴミが散乱し、たとえゴミ箱に捨てられたとしても、分別がされず、すべてのゴミが一緒に焼却処理されていました。

2022年、FIDRはゴミの分別や生ごみを堆肥化する研修を実施しました。研修を受けた校長先生は、早速問題解決に着手しました。学校運営委員会と議論を重ね、ゴミ捨てにおけるルールを作成し、児童・生徒たちともしっかり話し合い、学校内にゴミを捨てないよう促しました。また、抑止効果として、生徒も先生も規則を破った際の罰金も設けました。その結果、校内のゴミが減り、少しずつ衛生環境が改善され始めるようになりました。

さらに、スァー・ポーン校長先生の働きかけは学校内で児童・生徒向けにおやつなど食べ物を販売する売り手の人たちにも変化も生み出しました。それまでお店で販売する食品には、甘いジュースやスナック菓子など、子どもたちの健康や成長に悪影響を及ぼすものが多く含まれていました。そこで校長先生は、地域で昔から食べられている体にやさしいおやつの販売と、プラスチックゴミを増やさないことを求めました。

 

とはいえ、すぐに売り手側の人たちに受け入れられたわけではなく、校長先生の働きかけを非難したり、時には侮辱的な言葉が向けられたこともあったりしました。それでも彼は、生徒たちの健康を思い、粘り強く交渉を続けました。そして2年後の今では、売り手側も考えを改め、スナック菓子の代わりに手作りの伝統菓子や果物を販売するようになり、ゴミが出ても、学校内には捨てずに持ち帰ることを約束してくれました。

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モンドップ小学校で定めたゴミ捨てのルール

                       

学校に様々な変化が現れた2023年、私たちはスァー・ポーン校長先生に提案をしました。「外部の人に学校を見てもらってはどうでしょうか」と。

最初、校長先生は戸惑いを隠せず、「来ていただいても、特にお見せできるようなものはありません」と答えました。これまで、モンドップ小学校の取組みを見学に来るような外部の人たちは皆無で、校長先生自身も、自らの取組みが意義深いものだという認識がなかったのです。

そこで私たちは、校長先生が生み出した数々の変化が、いかにすごいことであるかを説明しました。他の小学校では、まだ実施されていない保健科目の授業、保健教室の設置と運用、衛生的な水の管理、コンポストづくり、学校菜園の設置、ゴミの捨てのルール制定、校内で販売される食べ物の変更、校長によるパソコン教室など、ひとつひとつを一緒に振り返りました。

すると、校長先生は、「そこまで言ってくれるなら」ということで外部の人の見学を受け入れることにしました。最初に受け入れたのは日本からやってきた日本赤十字看護大学院の学生さんたちです。初めての学校見学の受け入れで、校長先生だけなく、他の先生たちも一緒に一生懸命準備をしました。当日、学校に行くと、私たちが想像した以上によく準備がされて日本からのゲストたちを温かく迎えてくれました。こうやって、学校を見てもらい、称賛を受けた経験が、校長先生の自信となり新たな変化をもたらしたようです。その後も、数々の見学を受け入れ、今では自信を持って学校の紹介をしています。

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日本赤十字看護大学の学生に向けて取り組みを説明するスァー・ポーン校長先生

現在、校長先生は以前にくらべて、よりよい学校運営ができるようになりました。他の先生たちとの関係も良くなり、彼らも保健科目の重要性を理解し、一緒にさまざまなことに取り組んでいます。また、児童・生徒たちも、新しい教材やゲームをしながら学ぶ保健の授業を楽しんでいて、健康のことを考えておやつを選んだり、学校内のゴミ拾いにも積極的に取り組んだりしています。

校長先生のビジョンは学校が子どもたちにとって居心地良く、身近で安全な場所にすることです。私たちは、これからも彼の取り組みが、学校全体に新たな活力をもたらし、子どもたちの未来をより豊かにすることを期待しています。

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