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ネパール現代神話

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小山 直行

カトマンズから車に揺られてプロジェクト地まで向かいます。

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途中、日本のODAで造られたシンズリ道路(BPコイララ・ハイウェイ)を通ります。

全長160㎞におよぶこの道路の建造は、1986年の調査開始から2015年の全線開通までに30年の年月を費やしましたが、山岳地域に暮らす人々の交通は劇的に改善しました。

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それでも山の斜面に切り開かれた道路ゆえ、道幅は狭く、上り下りを繰り返します。

出発から4時間ほど。スンコシ川に沿った道は、ムルコットという町を過ぎて、つづら折りを上った先に突如、奇妙な光景が広がります。

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道路脇の斜面に大小の鏡が無数に張り付いています。

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いったいなぜ?

カーブミラーにしては11枚が小さすぎるし、これほどたくさん必要でもないでしょう。

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そこにはこんなストーリーがあったのです——。

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いつのこととも分からない昔、移動手段は徒歩か馬。スンコシ川に沿って細い道がありました。

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そのほとりに立つ一本の樹に女神が宿っていました。女神をまつる祠堂が、道よりも高い所に作られて、人々から崇められていました。

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時は過ぎ、現代。シンズリ道路が山肌を縫うように造られました。祠堂はその下方になってしまい、土埃に埋もれ、訪れる人も少なくなりました。

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ムルコット周辺のシンズリ道路の通行が始まった2011年、この付近での交通事故が急増。バスが崖下に転落し、大勢が亡くなることもありました。

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人々は女神が怒っているに違いないと悟り、ヒンドゥーの祭式を執り行いました。

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突如、一人の女性に女神が憑依し、語りました。

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「私はセティである。私の家である祠堂は人間の足の下にあり、土にまみれている。このような侮蔑は許すことはできない。」

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「だが、道の上に私の家を新しく作り、正しく祀るなら以後は皆が安全に通行できるであろう。」

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語り終えると女性の憑依は解けました。このような不思議な現象が以後もたびたび発生しました。

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急峻な斜面には新しく建造物を造る余地は少なく、外国の援助による道路でもあるため、実現は難しいと思われました。しかしネパール政府も日本の工事関係者側も地元の人々の願いを受け止め、2年後、道路の上に新しい祠堂を設けました。以来、大きな事故は発生していないようです。

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人々に恐ろしい力を見せたセティ女神は、守ってくれる力も強大なはず。ヒンドゥー教では女神への供え物としては、花、線香、蝋燭のほか、女性ならではのショールや腕輪など装身具もあります。セティ女神は鏡を喜ぶとのうわさがひろがりました。そういえば日本の神々にも、鏡は重要なアイテムです。

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交通安全のみならず様々な願いを叶えてもらえるとの評判を呼び、今も各地から詣でる人が次々と道路わきの斜面に鏡を取り付け、祈りを捧げています。

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※シンズリ道路(BPコイララ・ハイウェイ)上でたくさんの鏡がある場所はこちら:

https://maps.app.goo.gl/qkSYYUzjFWHc484v9

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