ネパールの異カースト間結婚~前編~
ネパールには126もの民族が暮らし、それぞれに独自の社会と文化を保っています。カーストによる社会階層の差別は広い地域で根強く残っています。最近は徐々に変化がみられるようになってきたとはいえ、ネパール人の結婚ではカーストと民族が大きく左右してしまいます。
今日でもネパール人は結婚となると、上位カースト、下位カーストの区別を大いに意識します。上位のカーストに属する人々は、下のカーストの相手と結婚すると、自分が下位のカーストに落ちてしまう、そうなれば社会から排除されてしまうのではないかという恐怖があります。
下位のカーストの人々も、上のカーストの相手と結婚したならば、自分が周りの人々からのけ者にされたり、財産を奪われたりする恐れがあります。大半の家族にとって、上位カーストの人との結婚は考えられないことなのです。
そのような中で、FIDRの現地パートナーNGOであるAYNのスタッフのダヴィさんはご両親が社会慣習を打ち破る結婚を遂げた話をしてくれました。前編・中編・後編に分けてご紹介します。
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父はチェトリ族(上位カースト「クシャトリヤ」に相当)で、若くして村のリーダーとなって尊敬される地位にありました。母は、隣村のタマン族(カーストに属さない山岳民族)で、父よりもずっと若い歳でした。
伝統的な価値観が深く根付いていた山村の中の、毎日の通学というごくありふれた景色からふたりの物語は始まりました。
母が語ってくれました。
「あなたのお父さんは隣村から学校に向かって歩いていた私を初めて見たの。私はまだ何も知らない10代の娘だったけれど、その頃彼はもう27歳。日々、通学路を歩く私を見て、だんだんと好意を抱くようになったんだって。
彼はまじめで精神的にも私よりずっと成長していたようだったけど、想いを隠しておくことはしなかったのよ。ある日ラブレターを書いて私にくれたの。それからというもの、毎日欠かさず続いたわ。
手書きの文字には、彼の想いがあふれていたうえ、尊敬や気遣いが感じられたし、将来を共にすることを約束したいと書いてあったのよ。
でも、最初は私もどう返事をすればいいのかわからなかったな。だってまだ若くて周りの社会が怖かったから。タマン族の娘がチェトリ族の男の人を愛することなど考えられないっていう周りの人たちを知っていたしね。
でも手紙って、話して聞かされるより心を動かすものなのね。時が経つにつれて、私は少しずつ、手紙を書いてくれる人が持っている強さと誠実さに惹かれていったみたい。」
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同じ民族、同じカーストの中での結婚が当然の社会で、その壁を越えて互いの距離を縮め始めたふたりはこの後どうなるでしょうか。
中編に続く。