「やってみよう」から始まった変化―農業研修と一人の農家の歩み
トンレサップ湖沿いに位置するコンポンチュナン州コンポンレーン郡では、多くの人々が稲作を主な生計手段として暮らしています。
しかし、種子や肥料、農薬などの生産コストがかさむ一方で、農業の知識不足のため収穫量が限られており、十分な収入を得ることができない家庭も少なくありません。
コンポンレーン郡農村開発プロジェクトでは、こうした課題の改善を目指し、州農林水産局と連携しながら農家向けの技術研修を行っています。研修では、土地の準備や良質な種子の選び方、肥料や農薬の適切な使用方法、雑草や害虫への対処、病気による作物への被害の早期発見など、実践的な内容を学びます。

土地の準備(左)や稲の種まき(右)の様子
サムロンセン地区に暮らす農家のオル・チャムルンさんは、12ヘクタールの農地で長年稲作を続けてきました。しかし、広い農地を持ちながらも収穫量は思うように伸びず、家計を十分に支えることができませんでした。
これまでの農法は、親から受け継いだ伝統的な方法が中心でした。病気による被害・害虫への対応や肥料・農薬の使い方など、現代的な栽培技術について学ぶ機会はほとんどありませんでした。
チャムルンさんは「一生懸命働いているのに、なかなか結果が変わりませんでした。自分のやり方に問題があるとは気づいていなかったんです。」と振り返りました。
チャムルンさんは、地域で農業研修が始まると積極的に参加するようになりました。毎回の研修に出席し、真剣に講師の話を聞き、分からないことがあれば質問をしました。
長年続けてきたやり方を変えることは簡単ではありません。それでもチャムルンさんは、「生産コストを抑えながら生産を高め、より安定して収益を得られる方法を見つけたい」という強い思いから、新しい技術を試してみることを決意しました。
まずは2024年、所有する農地のうち2ヘクタールで研修内容を実践してみることにしました。
その結果は、本人の予想を上回るものでした。使用する種もみの量は700キログラムから250〜300キログラムへと大幅に減少しました。一方で収穫量は9,000キログラムから13,000キログラムへと増加し、同じ面積で約44%の増収を実現しました。肥料や農薬にかかる費用が削減された一方、収穫された米の品質は向上しました。少ない投入で、高品質でより多くの収穫を得られるようになったのです。

立派に育った稲の前で笑顔のチャムルンさん
「研修で学んだことを実践するようになってから、稲の育ちが良くなり、生産コストも下がりました。おかげで家族の収入も増えています。」チャムルンさんは笑顔でこう話します。
成果を実感した彼女は、翌シーズンには新しい農法を12ヘクタールすべてに広げることを決めました。彼女はその知識を自分の中に留めることなく、「みんなが正しい方法で農業をすれば、暮らしはもっと良くなる」という思いで、近隣の農家に研修で学んだ知識や実践の成果を積極的に共有しています。
新しいことに挑戦する際、不安や戸惑いを感じるのは自然なことです。しかし、チャムルンさんのように小さな規模から試してみることで、変化を自分の目で確かめることができます。その成功体験が自信となり、さらなる挑戦につながっていきます。
FIDRは、研修を実施するだけでなく、農家の人々が経験や工夫を共有しながら学び合うことが重要だと考えています。小さな成長や挑戦が自身や周囲の人々のさらなる変化を起こしていく連鎖を大切にしながら、これからも活動を続けていきます。