農業技術を、より「遠い所」に暮らす農家の人々へ
乾季、FIDRが活動するソルクンブ郡ネチャサリヤン村とオカルドゥンガ郡チサングガディ村では、農業用水の不足と冬の冷気のため、農業生産が困難です。
年間を通じた農業生産を可能とすべく、FIDRは農業用のため池とトンネルハウスづくりを推進しています。
少しずつ暖かくなり、ネパールの国花であるシャクナゲが咲き始めた3月、農繁期を前にした両村の計13区において、地域の農業担当官らを講師に迎えた農業技術研修を開催しました。参加したのは、2024年度に農業用のため池とトンネルハウスをつくった農家約550名です。
苗床トレイを片手に話す村の農業担当官
研修内容は、苗床の作り方、トマト・じゃがいもの栽培方法、トンネルハウス内での野菜の栽培方法、殺虫剤の適切な使用方法、牛・水牛の糞尿の効果的な活用方法(肥料及び殺虫剤として活用できます)、など盛りだくさん。
実用的な内容を中心としつつも、参加者にとって難しくなりすぎないように、参加者と講師でコミュニケーションをとりながら研修を進めました。
研修を受講した農家たちからは、口々に「初めて学ぶことばかりだった」「学ぶ機会が得られて嬉しい!」「ぜひともまたこういう研修をやってほしい!」という声が聞かれました。そして「いまの自分たちには農業用ため池がある。トンネルハウスもある。そして今回の研修で、必要な知識も得られた。これから始まる農繁期に向けてみんなで頑張っていきたい」と力強く話してくれました。
学んだ内容をメモする参加者たち
ため池づくりから農業研修に至る活動は、2024年度で3年目。いよいよ、物理的にも社会的にもより遠い集落まで辿り着けるようになりました。
各村内の1区には、山の上から下まで、尾根の裏側から隣の尾根まで、おおよそ10の集落が点在し、区役所のある区の中心部から、徒歩3時間以上かかる集落もあります。
私たちは、ため池づくりをはじめるにあたり、ため池の水を分け合いやすい同じ集落内でグループメンバーを募るように勧め、その年に発足した複数のため池グループを対象に毎年研修を行っています。2024年度は13区で計102のため池ができ、これに伴い102のため池グループが発足しました。
研修の場所は、各集落から徒歩圏内(徒歩1時間半くらいまで)に定めます。
区の中心部の集落には情報が伝わりやすいので、プロジェクト1年目からFIDRや活動についての情報を得て、「ため池を作りたい!」という希望を上げてくれます。一方、区の中心部から離れるにつれて、区役所の人ですらほぼコミュニケーションをとらないような集落も出てきます。ようやく今年、それらの集落にFIDRの存在や活動の話が届き、「ため池希望」の声があがり、FIDRに聞こえてくるようになったのです。
いくつかの集落にとっては、今回が、行政や支援団体により行われた初めての研修だったそうで、講師や我々FIDRスタッフは、参加者ほぼ全員から手作りの花輪やカダと呼ばれる布を首にかけてもらうなど、まるで大きな式典に出席したかのように、盛大に歓迎されました。
「物理的な距離」に伴い「社会的な距離」が生じ、それが「取り残されたコミュニティ」を生み出していく・・・そんな事実を認識し、改めて山岳地域における地域総合開発の難しさを考えさせられました。山岳地域に点在する集落全てにアクセスすることは決して容易ではありませんが、今年度も引き続き、より遠くの、そして時に疎外された集落へも、積極的に活動を拡げていきます。