

当プロジェクトは、JICA草の根技術協力(パートナー型)による委託事業として実施しています。11月末、JICA東京センターならびにJICAベトナム事務所から3名ずつ計6名の視察団を迎え、プロジェクトの進捗状況や今後の方向性を確認していただきました。視察団からは、当プロジェクトの手法やアプローチが非常にユニークであり、特に女性と少数民族のエンパワーメントにつながる点が優れているとの評価をいただきました。
かつては貧しい少数民族と見られていた人々ですが、自慢する技術や文化、自然の中に見出す資源を探索する「宝さがし」を行い、それらを購入・体験する国内外の観光客からフィードバックをもらうことで自分たちの「宝」の価値を再認識し、若い世代にも誇りを持って文化を継承していく、という仕組みができあがりつつあることを視察団の方々に確認いただきました。
以前は家事しかやっていなかった女性たちからは、当プロジェクトを通じて収入を得るようになった結果、意識が変化し、自分の子どもたちには良い教育を受けさせたいという声も多く聞かれました。このような行動変容も重要な成果の一つと評してくださりました。
将来の持続性に関しても、当プロジェクトを成功させるための数々の工夫や、外部者の力がなくても現地の人々で自走できる仕組みが構築されており、大変「練られた事業」であると評価されました。
今回の視察を通じてFIDRのプロジェクトを高く評価されたJICAの方々は、2023年は日本とベトナム外交関係樹立50周年の節目にあたることから、当プロジェクトを日越の国際協力の好事例として広報したいと述べられました。今後、JICA、ベトナム国、FIDRがともにWin-Win-Winの成果を築くことが期待されます。
ナムザン郡カトゥー族観光組合の代表を務めるトゥーンさんが一連の視察を終えたJICAの方々にこう語りました。
「私の夢はコミュニティの人々の可能性を拡げ、この地域をさらに発展させていくことです。今歩んでいる道がその夢の実現につながると確信しています。」
今後も、より大きな成果を出せるよう、FIDRは全力で少数民族の人々と共に努力してまいります。
FIDR は、10月10〜13日に開催された「メコンツーリズムフォーラム2022」に参加し、事例発表などを行いました。
「メコンツーリズムフォーラム」は、「大メコン圏」と呼ばれるタイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマーの 5 カ国と中国の一部の地域を合わせたメコン川流域一帯が、一つの観光地として認知度を高め、ネットワークをつくって互いに地域の観光業界を盛り上げようと、観光事業の事例発表やマーケティングに関する情報共有などを行うイベントで、コロナ前には毎年実施されていましたが、今年は約5年ぶりとなる開催となりました。今年はベトナム中部のクァンナム省でおこなわれ、各国の観光局、専門家、旅行業者など250以上もの団体が集まり、展示会やパネルディスカッション、デモンストレーションなどを行って、お互いの情報を共有しました。
FIDRは、ベトナム観光庁から推薦を受けてこのフォーラムに参加し、同省のナムザン郡で少数民族カトゥー族とともに行ってきた「コミュニティー・ベースド・ツーリズム(CBT:地域資源を活用した自立的な観光開発)」について事例共有した他、ナムザン郡共同組合が、カトゥー族をはじめとする中部山岳少数民族の作った製品を展示したり、織物職人やかご職人による実演を行いました。
13日に実施されたツアーでは、世界各地のメディアら約25名がナムザン郡の「少数民族カトゥー族ツアー」に参加し、少数民族自身が運営するCBTを体験するとともに、各国のCBTに関して意見交換を行う機会となりました。
同フォーラムに参加したFIDRベトナム事務所の大槻所長は、少数民族カトゥー族によるCBTやFIDRへの反響が大きかったと言います。
「フォーラム参加者同士の意見交換は、持続的コミュニティー観光開発の話題で持ちきりでした。FIDRがカトゥー族とともにCBTに取り組んだ10年前には、大型観光開発のトピックスが主流であり、『こんな小さなコミュニティーが観光をするなんて』とやや冷笑されていましたが、今、こんなにも評価されています。FIDRが進めてきた小さな地域の取り組みは間違ってなかったな、と実感しています。13日のカトゥー族ツアーの後は、フィリピンやフランスなど世界各国からも自国でも紹介したいとたくさんメールが届いています。少数民族による持続的な観光開発の先行事例ともいえるカトゥー族ツアーが、ますます注目されていくのではないかと感じています。」
FIDRがベトナム中部クァンナム省で行う当プロジェクトは、2022年2月より、「クァンナム省山岳少数民族地域における地域資源を活用した持続的な農村産業促進のための基盤構築事業」として、JICA草の根技術協力(パートナー型)により実施されています。6月2日に、プロジェクトの目標や活動内容を共有するための「キックオフワークショップ」を、クァンナム省人民委員会とFIDRの共同主催で開催しました。
当日は、ベトナム政府やクァンナム省のプロジェクト関係者代表、クァンナム省の対象地域9郡の行政官、地域リーダーや住民など、あわせて120名以上の参加者が会場に集まりました。また、日本のJICA東京センターやJICAベトナム事務所、各種専門家の方々がオンラインで参加しました。
このプロジェクトは、約15年前にFIDRがたった1つの村で実施した伝統織物支援プロジェクトが、ユニーク且つ顕著な成果を生み出したことが始まりでした。クァンナム省ナムザン郡ザラ村で行ったこの小さな種まきが、その後、村の住民主体の観光開発プロジェクトにつながり、観光を軸とした村おこしを通じて収入向上及び地域の自立的発展が実現しました。この観光開発プロジェクトは、そのインパクトをナムザン郡全域に拡げる「地域活性化プロジェクト」へと発展し、今般いよいよクァンナム省丘陵・山岳地の9郡での発展型農村総合開発プロジェクトへと繋がりました。
4年8か月のプロジェクト期間において、クァンナム省全体で、地域の魅力と資源を活かした持続的な農村産業の振興を促進するため、その基盤である人材育成、官民連携、マーケティング、後方支援の体制強化を目指して取り組んでいきます。
新型コロナウイルスの影響で、約2年間、本格的な活動開始が延期となっていた当プロジェクトがやっと始まったことに、キックオフワークショップに参加した方々は大変喜んでいました。「これまでのナムザン郡での経験を他郡にも広げていき、クァンナム省の大切な『人材』と『地域の宝』を活用して、広い地域で多くの成果を生み出していきましょう。そして、クァンナム省のモデルを、さらに他の省にも広げていきましょう」と、現地政府や住民皆で決意を新たにしました。
12月3日、マレーシアで開催された「TENUNファッション・ウイーク」のランウェイショーに、FIDRが支援するベトナム中部織物ネットワークから6つの少数民族の伝統織物が登場しました。「TENUNファッション・ウイーク」はASEANの国々の伝統織物を紹介する一連のイベントで、10月にはオンラインで開催されました。この時に参加した44の伝統織物グループのうち、選ばれた一部のグループのみが出場したのが今回リアルで行われたランウェイショーで、ベトナム中部織物ネットワークは、再びベトナム代表として参加しました。
当日は、プロのモデルが6民族の伝統織物でつくられた衣装を身にまとい、ステージに登場しました。現代風にアレンジされた衣装も多い中で、伝統的なスタイルをそのまま活かしたベトナム少数民族の衣装は、参加者の目を引き付けていました。それは、今まで長い間守られてきた伝統衣装が今もなお充分に魅力的であることを証明しました。
FIDRが伝統織物の支援を始めた20年前は、誰も彼女たちがつくる織物の価値を認めず、廃れてしまうのではと思われていました。それが、今回のようにミラノやニューヨークの国際的なデザイナーも参加するイベントで紹介されるまでになったのです。FIDRスタッフだけでなく、少数民族の一つであるカトゥー族で、FIDRとともに伝統織物の復興と商品化に取り組んできたトゥーン氏(ナムザン郡協働組合代表)も、感慨深い様子でショーを見ていました。
ベトナム中部織物ネットワーク登場シーン:https://youtu.be/de2PRq5FoMs(32:20〜34:00)
10月15日から3日間、主にASEANの国々から44の伝統織物グループが参加する大規模なイベント「TENUNファッション・ウィーク」がオンラインで開催され、ベトナムからは唯一、FIDRが支援するベトナム中部織物ネットワークから6つの少数民族が参加しました。
ベトナムをはじめ、東南アジアには何百もの織物コミュニティがあり、織物は地域の伝統文化として継承されています。芸術作品として時代を超えて愛され続けてきた一方で、近代化の流れの中で、織り手が失われつつある伝統織物もあります。TENUNファッション・ウィークは、そのような東南アジアの織物の重要性の再認識や振興を図るため、マレーシアのメイバンク財団と、ASEAN手工芸と振興協会(AHPADA)及びマレーシアの社会的企業Tanotiとの共同により開催されました。
初日にはベトナム中部織物ネットワークの織物や少数民族の紹介動画が放映されるとともに、FIDRベトナム事務所のオアン職員がパネリストとして登場し、FIDRが織物の振興支援を始めた経緯や、織物振興を含むコミュニティ開発の取り組みについて紹介しました。
ファッションを通じて伝統織物に注目が集まることが、織物コミュニティの繁栄や豊かな文化遺産を守ることへつながると期待されています。
〜出演までの秘話〜
国際的なファッションイベントに参加するのは、少数民族にとってもFIDRスタッフにとっても初めての経験!
招待されてからイベント当日まで、参加者の織り手さんたちの様々なアイデアと工夫がつまっていました。世界で最も厳しいのではないか!?と思う程のロックダウンの最中、輸送が止まったり、遅れることが当たり前の中でも、山岳農村部に住む織り手さんたちは工夫して、それぞれご自慢の伝統衣装をFIDRスタッフに送り届けてくれました。また、参加条件である織物の紹介ビデオも、素材が少ない中、急遽FIDRスタッフがモデルを務めたり、織り手さんの大昔の結婚式のお写真を活用したりと共同でアイデアを出し合い、手作りしました。自慢の伝統衣装は、国際郵便でマレーシアに送付され、ロックダウン制限下というハードな条件にも関わらず、見事に間に合いました!ベトナム事業地の十八番でもある「想いと知恵と行動、やると決めたら前進のみ!」という連携プレーを今回も大発揮してくれた出来事でした。
TENUNファッション・ウィークの様子は下記ウェブサイトでご覧いただけます。
https://tenunfashionweek.com/fashion-show-archive/
・ベトナム中部織物ネットワークの織物の紹介:https://youtu.be/m3_Sy7UnNy8(1:08:50)
・オアン職員のパネルディスカッション:https://youtu.be/m3_Sy7UnNy8 (1:17:35)
FIDRは約20年にわたり、ベトナム中部少数民族の伝統織物の生産と、その販売拡大による収入向上を支援してきました。この伝統織物は2014年にベトナムの無形文化財となり、2019年には中部の少数民族による織物ネットワークが立ち上がりました。今年は国際的なファッションショーやユネスコ無形文化財の国際会議にも取り上げられました。
そんな織り手の女性たちが、大喜びするニュースがありました。FIDRを長年支援してくださっているヤマザキ製パン従業員組合の古河支部様が創立50周年を迎えるにあたり、従業員の皆さんへの記念品として、織物パスケースを900個発注してくださりました。
新型コロナウイルス対策のロックダウンが実施される中、織り手の女性たちは、初めて製作するパスケースを一つ一つ丁寧に作りました。織の色合いや、カードが取り出しやすいポケットの設計、ストラップを付けられる金具など、様々な工夫がされたパスケースは美しく仕上がり、織り手の女性たちが自信をもって日本に向けて送りました。
受け取った古河支部支部長の北島様より「実際に手に取ってみたところ、既製品にはない手作業らしさが伝わり、非常に暖かみを感じます。一つ一つデザイン・色が異なり、同じものがないので、自分だけの特別感があります。まさに、多様性の時代に即しているのではないでしょうか。他国の伝統文化を感じながら大切に使わせていただきます」とご感想が寄せられました。
UNESCO 無形文化遺産国際情報ネットワークセンター(ICHCAP)及びシンガポールの国家遺産局(National Heritage Board)が共催する「伝統文化の保護と継承」の国際会議が8月30日から31日にかけてオンラインで開催され、ベトナム代表としてFIDRベトナム事務所のホア職員が登壇しました。同会議は、アジアを中心とした各国の代表が、無形文化遺産を次世代に継承していくために若者が果たす役割について、自らが携わる事例を共有しました。
ホア職員は、FIDRが長年ベトナム中部で少数民族とともに取り組んできた伝統織物の振興や観光開発における、伝統文化の継承と、若者の役割や活動への関わり方について発表しました。各世代が果たす役割が違うこと、また、若者を活動に巻き込むためには、無形文化の有形化や、明確なキャリアパスの提示、地域内でロールモデル形成が重要であると語りました。
発表後には、ホア職員に「伝統文化を継承していくにあたり若者とシニアの間にある考え方の違いをどう乗り越えたのか」という質問が寄せられました。それに対し、ホア職員は、若者とシニアが膝を突き合わせて話し合う機会を設けることと、時代とともに文化も変容する中で、残すべきコアとなる要素は何かを互いに共有することが大切だと述べました。
当日の様子はICHCAPのYoutubeでも配信されています。ホア職員の発表内容は1:04:35からご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=9ZQkeXxVpmU&t=4750s
9月17日から18日にかけて、台風ノウル(台風11号)がベトナム中部を襲い、大きな被害をもたらしました。死者は6名、負傷者は112名にのぼりました。
FIDRが長年支援しているクァンナム省タイヤン郡での被害も甚大でした。130戸以上の家屋が全壊し、3,300世帯以上が洪水に見舞われました。農作物や家畜への被害も大きく、その被害は日本円で8億円相当にのぼりした。FIDRは、タイヤン郡当局からの要請を受け、10月9日、被災した人々に緊急支援物資を提供しました。
タイヤン郡は、高地部を中心に土砂崩れの爪痕が残ったままで、物資を配布する村々への道も寸断されている状態でした。FIDRは、家屋が浸水・倒壊した71世帯に毛布、ハンモック、米・干物等を、家屋が損傷したり家財を失ったりした287世帯には、防虫網、石鹸、ミルク等を手渡しました。また、今後の災害に備えて、スコップ、ロープ、ライト等のレスキュー・キット90セットをタイヤン郡の行政機関を通じて、郡内の村々に配布しました。
救援物資を受け取った住民からは、「食材は近隣の人と分けて食べました」「頂いた収納ボックス(写真に写っている白色のボックス)に貴重品も保管でき、重宝しています」といった喜びの声が聞かれました。
今年もベトナム中部には数多くの台風が来襲しています。しかも気温の低い季節となってきます。被災した方々にとっては、元の暮らしに戻るまでの道のりは遠いかもしれませんが、この支援物資が当座の必要に応え、わずかでも気持ちの上で励みとなってくれることを願っています。
中部のクァンナム省では、沿岸低地部はサービス産業を中心に経済成長が続いている一方、19の少数民族が居住する西部山岳地ではその大半は零細な農業に従事し、経済発展から取り残されています。クァンナム省は、FIDRが「ナムザン郡地域活性化支援プロジェクト」で極めて高い成果を挙げていることから、貧困率の高い同省山岳地域9郡で、少数民族全体の生活水準を高めるプロジェクトの実施をFIDRに要請しました。
これを受けて調査を行い、各地に残る豊富な自然や少数民族の伝統的文化が、特色ある地域の産業を育てる上で強みとなることが分かってきました。調査結果をもとに、地域産品開発の可能性、バリューチェーン構築の方策、地域間の連携強化のあり方などを見極め、現地関係者と共同で計画にまとめました。2019年12月には、JICAに草の根技術協力事業として提案し、採択されました。現在、年度内の活動開始に向けて、準備を進めています。